長寿に備え、仕事と運用で所得増

金融リテラシーの向上

 --100歳時代に求められる金融リテラシーとは

 白根氏 日本人全体として、「投資=リスク、損失、危険」という認識がまだまだ非常に強いので、学校教育や社会教育を通じて、資産形成の大切さについて学んでもらいたい。リスクや不確実性についてしっかりと認識してもらえるようになれば、躊(ちゅう)躇(ちょ)せずに身の丈にあった資産形成を始める人が増えるのではないかと期待しています。

 清家氏 子供のころから金融について学ぶことは良いことだと思っています。一番大切なのは、リスクとリターンの関係ですね。高いリターンには高いリスクが伴い、高いリスクが嫌なら低いリターンで我慢する。「リターンの高い商品です」と言われれば、「リスクも高いのだな」と理解し、「安心な商品です」と言われれば、「リターンはあまり期待できないのだな」ということが分かる。その常識を身に付けるということです。また資産の運用は経済環境の影響を受けますので、一般的なマクロ経済の知識を学ぶことも大事です。

 自助は、自分の頭で考えて自分で責任を取らなければなりません。だからこそ、リスクとリターンについて理解し判断できるリテラシーを身に付けておく必要があるのです。

三上洋一郎氏 三上洋一郎氏

 三上氏 やはりリスクとリターンについて理解することがすごく大切だと思っています。リスクを取らなければ大きなリターンは得られない。リスクを取りたくなければ少ないリターンしか期待できない。この原則をしっかりと踏まえ、「低いリスクで高いリターンが期待できますよ」という説明に疑問を持てるようにしなければいけないと思っています。

金融サービスの充実

 --資産運用での専門家の役割は

 白根氏 日本にはFP(ファイナンシャル・プランニング)技能検定に合格した人が181万人います。つまり国民の約70人に1人が基本的なリテラシーを身に付けています。これに対して、金融機関の職員がリスクとリターンの関係や世界情勢を含むマクロ経済についてきちんと説明できているかというと、まだまだ課題が多く、プロとしてレベルを高めていく必要があると思います。また若い人には自らFPの勉強をしてリテラシーを高めてほしい。日本FP協会としてもお金に関する出張授業などを通じ金融リテラシーの向上に貢献したいと考えています。

 清家氏 自助は最終的に自己責任ですが、資産寿命を延ばしたり、金融リテラシーを高めたりするには専門家のアドバイスも必要です。慶應義塾大学では野村ホールディングスと資産寿命を延ばすことなどを目的にしたファイナンシャル・ジェロントロジー(老年金融学)の共同研究を行っています。健康寿命の延伸にはヘルスケアが、資産寿命にはウェルスケアが必要ですが、個人の資産状態は健康状態以上に多様で、リスクとリターンについてどう考えるかも個々人で千差万別です。そうした個人のニーズに合わせた金融サービスが提供できるようになっていけばよいと思っています。

【プロフィル】白根壽晴氏 しらね・としはる 昭和52年、早稲田大学法学部卒。住友電気工業を経て、58年、税理士登録。エフピーインテリジェンス代表取締役。平成24年から日本FP協会理事長。『定年後のお金 全疑問45』(東京書籍)など著書多数。

【プロフィル】清家篤氏 せいけ・あつし 昭和53年、慶應義塾大学経済学部卒。博士(商学)。現在、社会保障制度改革推進会議議長、ILO「仕事の未来世界委員会」委員などを兼務。近著に『金融ジェロントロジー』(編著、東洋経済新報社)など。

【プロフィル】三上洋一郎氏 みかみ・よういちろう 平成10年生まれ、兵庫県出身。デジタルマーケティングを手掛けるGNEX代表取締役CEO&Founderで、慶應義塾大学総合政策学部2年。昨年9月から内閣府の「人生100年時代構想会議」の有識者委員を務めている。

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