シンポジウム「100歳時代のヘルスケア~認知症予防で健康長寿」

【提言4】社会的活動や交流の促進

パネルディスカッションする国立長寿医療研究センターの島田裕之・予防老年学研究部長=7日午後、東京都千代田区の大手町サンケイプラザ(佐藤徳昭撮影) パネルディスカッションする国立長寿医療研究センターの島田裕之・予防老年学研究部長=7日午後、東京都千代田区の大手町サンケイプラザ(佐藤徳昭撮影)

 朝田氏 社会的な生き物である人間にとって一番大事なのは社会脳だといわれています。社会性を高めることがある意味で一番の脳トレかもしれません。これからの高齢者には「キョウヨウ」と「キョウイク」が必要。「教養」と「教育」ではなく、「今日用事」と「今日行く所」があることが大切です。

 島田氏 予防にはやはり生きがいを持てる活動が望ましい。生きがいを持つには人から必要とされ、感謝されることが大事で、働くことが最も良いと思います。「生きがい就労」という言葉が使われますが、多くの高齢者が無理なく働ける社会にしていくことが望ましいと考えています。

 岡野氏 大人なってからも神経細胞が新しく生まれることが分かってきたのですが、そのためには運動すること、新しいことに好奇心を持つこと、そして異性に関心を持つことが大事なのです。運動や社会的な活動は、脳の中で記憶をつかさどる海馬で新しい神経細胞を作ることにつながり、認知症予防に深く関係しているといわれています。

 田村氏 働くことが認知症予防にもっとも良い、というお話が出ましたが、当社では平成29年4月から保険業界では初となる内務員の65歳定年制と最長70歳まで働ける継続雇用制度を導入しました。お客さま、従業員、社会を元気にしようという「太陽の元気プロジェクト」という取り組みのなかで、従業員を元気にすることを目的に実施したものです。定年延長しても給料を途中で引き下げず、能力のある方はポストもそのままにして、働きがいを持てるようにしています。

【提言5】治療薬や治療法の研究開発の促進

 岡野氏 認知症の治療薬の開発は24年間失敗が続いています。原因物質であるアミロイドβの脳内蓄積を防いだり、消去したりしようという方策に固執し続けたことが原因ではないかと考え、慶應義塾大学医学部では従来とは異なる物質を標的とした薬の開発を行っています。もう一つ、100歳以上の百寿者の方の腸内細菌や遺伝子を調べ、長生きしている方の状態に近づけるような薬の開発にも取り組んでいます。110歳まで生きる方は、100歳ぐらいから認知能力が低下せずに維持されている人が多い。このメカニズムを解明して創薬につなげていきたいと考えています。

 朝田氏 当面は既存の薬を複数組み合わせる「カクテル療法」がポイントになると思います。また運動や認知トレーニングといった非薬物療法と組み合わせて薬の治験をやれば、効果が上がっていく可能性があると思っています。

【提言6】当事者や家族を支える仕組み作り

 朝田氏 少子高齢化が進む中で、介護保険や健康保険といった社会保障制度を維持できるのか不安があるうえ、公的保険だけでは十分とはいえません。より質の高い介護や医療を受けようとすれば、公的保険と民間の保険を抱き合わせて備えることが必要な時代になってきたと思います。

 島田氏 認知症は経過期間が長く、ご家族にとって介護は大変な負担です。最終的には施設のお世話になるという決断をせざるを得ないときがくると思います。施設によっては、公的年金だけでは賄えず、自己資金が必要となってきます。認知症になっても安心して暮らせるようにする上でも、公的年金との差額を埋める、民間の保険サービスの充実が必要だと思っています。

 岡野氏 慶應義塾大学で認知症による経済損失を試算したところ、14・5兆円にもなりました。うち医療費が1・6兆円、介護費が6・5兆円で、残りは社会的な整備のコストや介護離職による経済生産の喪失などです。高齢化で認知症患者が増えれば、損失もどんどん膨らむので、いかに認知症の発症を遅らせるかが重要です。5年遅らせると損失は半分になると試算されていますので、認知症予防は子供たちの将来のためにも重要です。

パネルディスカッションする太陽生命保険の田村泰朗・取締役常務執行役員=7日午後、東京都千代田区の大手町サンケイプラザ(佐藤徳昭撮影) パネルディスカッションする太陽生命保険の田村泰朗・取締役常務執行役員=7日午後、東京都千代田区の大手町サンケイプラザ(佐藤徳昭撮影)

 田村氏 生命保険という商品は保険金などのお支払いの時にはじめてお客さまに価値を提供できる商品です。ですから、お支払いの時にこそお客さまには最も喜んでいただきたいと考えています。しかし、手続きが面倒などといった理由でお支払いの手続きをされないお客さまが結構いらっしゃいます。そこで、「追いかけて行ってでもお支払いをさせていただく」ということを合言葉にして、70歳以上のお客さまを年に1回訪問しお支払いできることがないかを確認させていただいたり、「かけつけ隊サービス」といって、お手続きの際には専門知識を持つ内務員がお客さまのお宅に直接出向いて行って手続きのお手伝いをさせていただいたりする取り組みをしています。確実に迅速に簡単にお支払い手続きをしていただくことでご安心いただく。まさに「追いかけて行ってでもお支払いをさせていただく」ために、今後もさまざまな取り組みをしてまいります。

【プロフィル】朝田隆氏 あさだ・たかし 昭和57年、東京医科歯科大学医学部卒。国立精神・神経センター武蔵病院精神科医長などを経て平成13年に筑波大学臨床医学系精神医学教授。26年から東京医科歯科大学医学部特任教授、27年からメモリークリニックお茶の水院長。

【プロフィル】岡野栄之氏 おかの・ひでゆき 昭和58年、慶應義塾大学医学部卒。大阪大学医学部神経機能解剖学研究部教授などを経て平成13年から慶應義塾大学医学部生理学教室教授、27年から29年9月まで同医学部長。29年10月から同大学院医学研究科委員長。

【プロフィル】島田裕之氏 しまだ・ひろゆき 理学療法士を経て、平成15年、北里大学大学院(博士課程)修了。東京都老人総合研究所研究員などを経て、22年、国立長寿医療研究センター自立支援システム開発室室長、26年から同センター予防老年学研究部長。

【プロフィル】田村泰朗氏 たむら・やすろう 昭和62年、太陽生命保険入社。四日市支社長、総合リスク管理部長、企画部長などを経て、平成29年4月から取締役常務執行役員。

協賛 太陽生命保険

 太陽生命保険では、平成28年3月に簡単なチェックで加入できる選択緩和型で認知症を保障する生命保険業界初の「ひまわり認知症治療保険」を発売。29年10月に、長生きすればするほど受け取る年金総額が増える「100歳時代年金」を発売するなど、長寿社会の課題解決に取り組んでいる。

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