高齢者のサーキットトレーニング 記憶など認知機能の改善効果

 □東北大加齢研・川島隆太教授とカーブス

 超高齢社会を迎え、認知症への関心が高まっている。厚生労働省によると、平成24年に約462万人だった65歳以上の認知症患者数は、37年には700万人を超える見込みだ。東北大加齢医学研究所(仙台市)所長の川島隆太教授(59)らは、1日30分のサーキットトレーニングが高齢者の認知機能に及ぼす影響を検証しており、運動が記憶力や言語能力などを改善する効果があることが分かってきた。認知症予防への応用が期待されている。(宮田奈津子)

サーキットトレーニングに取り組む女性たち=仙台市のカーブス東北大学加齢研スマートエイジング・スクエア サーキットトレーニングに取り組む女性たち=仙台市のカーブス東北大学加齢研スマートエイジング・スクエア

「処理速度」向上

 研究を行っているのは川島教授と女性専用の健康体操教室「カーブス」を展開するカーブスジャパン(東京都港区)。カーブスは、マシンによる筋トレと足踏みボードでの有酸素運動を30秒ずつ繰り返す30分間サーキットトレーニングが特徴で、23年に同研究所に出店して共同研究を継続している。

 研究対象は脳疾患などの既往歴を持たず、定期的運動をしていない60歳以上の男女64人。4週間にわたり週3回のカーブストレーニングを行うグループ(介入群)と行わないグループ(無介入群)に分けた。

 介入前後に、思考や行動を制御する「実行機能」、限られた時間で多くの作業を行う「処理速度」、「エピソード記憶」「言語能力」など、6種の認知機能をみる検査を行い、変化をポイント化した。

東北大加齢医学研究所所長の川島隆太教授 東北大加齢医学研究所所長の川島隆太教授

 「実行機能」の中で、条件に当てはまる単語を羅列する言語流暢(りゅうちょう)性検査では無介入群は0・70ポイントだったのに対し、介入群は1・48ポイント向上。「エピソード記憶」のうち、聞いた物語を再生する物語記憶は、介入群は4・67ポイント、無介入群は2・55ポイント改善した。符号の記入作業を行う処理速度では、介入群は7・86ポイントも成績が良くなった。

 川島教授は、「有酸素運動によって脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質が分泌され、脳の新生効果が高まるという先行研究がある。有酸素運動が認知症予防につながると指摘されてきたが、筋トレやサーキットトレーニングでの効果は不明だった。体を動かすことで、認知機能をある程度は向上させ、維持することができると分かった」と分析する。

予防の選択肢多く

 同研究所では21年、スマート・エイジング国際共同センターを設立し、脳科学研究を中心にした認知症ゼロ社会の実現を目指している。産学と市民が連携し、健康寿命延伸に関わるサービスを提供し、実際の効果を検証していく。

 カーブス東北大学加齢研スマートエイジング・スクエアに通う福重康子さん(58)は、「家族がパーキンソン病になり、脳や運動に関心がある。認知症予防や健康に何が効くのかは分からないが、体力作りを兼ねた運動を楽しみたい」と話す。

 カーブスとの共同研究では、継続的なデータ収集によって運動と認知機能の関係性をさらに詳しく調べる。

 川島教授は「『脳トレ』のようなゲームをはじめ、音読や計算を使った認知トレーニングもあるが苦手な人もいる。一方で体を動かすことが好きな人もいる。認知機能を落とさないためには、手段は多くあった方がいい。100歳時代を前に認知症対策は重要。有益な情報を発信していきたい」としている。

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