老い学ぶ第2の義務教育 「100歳大学」提唱の國松善次・元滋賀県知事

國松善次・元滋賀県知事 國松善次・元滋賀県知事

  人生100歳時代を迎える備えと覚悟はあるだろうか-。滋賀県栗東市と湖南市で、前期高齢者となる65歳を対象にした「100歳大学」が開講されている。趣味作りといった既存の講座とは一線を画し、福祉や認知症対策など、老いを生き抜く基礎を学ぶ“第2の義務教育”として注目されている。「100歳大学」を提唱した元滋賀県知事の國松善次さんに、学びの場作りの背景や超高齢社会の課題などについて聞いた。(宮田奈津子)

 ◆十人十色の老い

 --100歳時代がやってくる

 「厚生労働省の統計によると、100歳人口は平成27年に6万人を超え、67年には65万人を突破すると予測されている。日本が突入するのは“異常高齢社会”で、未知の領域。医療や介護保険などの福祉制度は集団防衛の仕組みで、いずれ限界を迎えるだろう。100歳を生き抜くためには、自己防衛、つまりは備えと覚悟が重要だ」

 --なぜ「100歳大学」を開設したのか

 「老いといえば、有吉佐和子さんの小説『恍惚(こうこつ)の人』のような認知症を抱えた姿を想像する。しかし、100歳までは長い時間があり、十人十色の老いの姿が待つ。県職員時代に福祉を担当し、高齢社会を乗り切るためには、老後の楽しみ作りよりも“第2の義務教育”が必要だと考えた」

 --何を学ぶのか

 「基礎科目として介護予防や福祉制度、地域参加、幸せ作りなどを学ぶ。そのほか、男女別認知症対策や料理、介護予防体操といった選択科目を受講する。身体の衰えも男女や個人で傾向が異なり、自分の老いを想像することで必要な対策もできる。学びを生活の中心にして、ライフスタイルも確立してもらう」

 ◆備え、長寿を楽しむ

 --ご自身は80歳。取り組んでいることは

 「知事の任期が終わり、70歳で本格的にマラソンを始めた。3キロ、10キロ、ハーフと距離が伸び、タイムへの欲も出て、東京マラソンなども完走した。走ることはしんどいと思っていたが、『何事もライバルは自分なんだ』と再認識できたことが収穫だった」

 --「100歳大学」を通じて目指すところは

 「成長期の義務教育は、社会で活躍するための“登山の教育”で、先生も教科書も夢もある。一方、高齢者は体力低下や社会的役割の喪失などに直面し、時間だけが横たわる。“人生下山の教育”を全国各地に広めたい。高齢者が積極的に福祉や地域課題に取り組んでほしい」

 --必ず訪れる老い。どう向かい合えばいいのか

 「多くの人が何の備えもなしに100歳を迎えようとしている。人生には上り坂と下り坂、“ま坂(さか)”があり、いろいろなことが起きる。人生ドラマは最後の場面で決まる。自身が主役で監督にもなれる。役割を作り出す心構えがあれば、不安になる必要はない。老いを学び、備え、覚悟する。そして、日本が世界のトップランナーとなる高齢社会と長寿を楽しんでいこう」

                  

【プロフィル】國松善次

 くにまつ・よしつぐ 昭和13年生まれ。34年滋賀県立短大農学部卒、大阪府入庁。41年中大法卒。51年滋賀県庁入庁、教育委員会事務局文化部長、健康福祉部長などを経て、平成10年に滋賀県知事に初当選。18年まで2期を務めた。「100歳大学」を運営する健康・福祉総研(大津市)理事長。80歳。

                  ◇

【用語解説】100歳大学

 平成27年9月、滋賀県栗東市で1期生37人を迎えてスタート。28年には同県湖南市でも開講した。65、66歳が対象で、市広報などで募集を行う。各分野の専門家を講師に迎え、体系的に「老い」を学ぶ。1年間で基礎と選択科目を40コマ以上受講し、単位取得者には市が卒業証書を授与する。卒業生からは「老いを考える仲間ができて心強い」「高齢者としての心構えができた」といった声が寄せられているという。

この記事にアクションする