ゴルフで記憶力が改善 気持ち前向き、教室普及へ

 人生100歳時代で最も大切なのは元気に生活できる健康寿命を延ばすこと。その大きな阻害要因となっているのが認知症だ。国立長寿医療研究センター(愛知県)などが実施したゴルフによる認知症の予防効果を調べる研究で、高齢者の記憶力が改善し、体力、意欲の向上など心身に良い影響があった結果が公表された。これを受け、ゴルフ業界はゴルフを始める高齢者を増やしていきたい考えだ。(道丸摩耶)

ゴルフに高齢者の記憶力を改善させる効果があるかどうかを確かめる研究のため、プレーする高齢者 (ウィズ・エイジングゴルフ協議会提供) ゴルフに高齢者の記憶力を改善させる効果があるかどうかを確かめる研究のため、プレーする高齢者 (ウィズ・エイジングゴルフ協議会提供)

 続けられることを

 研究は平成28年10月から約半年にわたり高齢者にゴルフを体験してもらい、教室に参加する前後の認知機能検査の点数を比較する形で行われた。ゴルフをほとんどしたことがない、またはほとんどしない関東地域に住む65歳以上の男女53人が参加した。平均年齢は70・1歳。

 その結果、単語を覚える単語記憶検査では6・8%、文章の流れを記憶する論理的記憶検査では11・2%の向上がみられた。ゴルフ教室に参加せず健康に関する講座を2回受けた65歳以上の男女53人は記憶機能に変化がなかった。

 国立長寿医療研究センターの鳥羽研二理事長は「認知症の危険因子は、体を使わないことと頭を使わないこと」と指摘。「パズルやドリルなど認知症の予防、治療ツールは医療関係者の介入が必要。個人が趣味として続けられるものでないと、改善につながらない」と研究対象にゴルフを選んだ理由を説明した。

 産経新聞社が立ち上げた有識者による「100歳時代プロジェクト」会議のヘルスケア委員会委員を務める同センターの島田裕之部長は、「ゴルフは打数の計算などで頭も使う。仲間と一緒にプレーをすることで認知症の予防に効果がある社交の機会にもなる」と利点を解説する。ただ、今回は長期的な追跡は実施できていないため、現時点では認知症の予防効果までは実証できていないという。

 ちょうど良い負荷

 研究成果として注目されるのは、教室に通い続ける継続率の高さと参加者の生活や意識の変化だ。半年間続けた参加者は98・9%と非常に高く、終了後も9割がゴルフを続けた。アンケートでは半数近くが「気持ちが前向きになった」、4割近くが「歩くのが速くなった」と精神面、肉体面での利点を挙げた。

 日本プロゴルフ協会の倉本昌弘会長は「ゴルフは健康に良いと実感していたが、それを医学的見地から発表してもらえたことは大きい」と語り、高齢者のゴルフ人口を増やしていきたいとの考えを示した。

 今回の教室では練習セッションが90分、コースを回るセッションも120分と、短時間で楽しめるよう工夫。約7割の参加者が「体力的にちょうど良かった」と答えた。

 同協会など5団体が加盟する「ウィズ・エイジングゴルフ協議会」は近く、高齢者のための教室を運営するマニュアルを作成し、自治体などを通じて普及させていく計画だ。マニュアルには、水分補給や安全管理など高齢者特有の事情に配慮することも盛り込まれる。協議会会長を務める関東ゴルフ連盟の高橋正孝理事長は「65歳以上の新しいゴルファーを創出したい」と意気込んでいる。

                  

 誰もが100歳まで生きることが当たり前となる時代に備え、産経新聞社は「100歳時代プロジェクト」に取り組んでいる。「ヘルスケア」「ライフプラン」「安心安全社会」をテーマに、100歳時代を生きる知恵や課題解決策を発信していく。

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