認知症への備え 早期予防へ保険とサービス一体提供 太陽生命保険

 誰もが100歳まで生きることが当たり前となる時代に備え、産経新聞社が立ち上げた有識者による「100歳時代プロジェクト会議」は、プロジェクトのパートナー企業である太陽生命保険とともに、「認知症への備え」について議論する分科会を開催した。

 同社が発売した「ひまわり認知症治療保険」のほか、認知症についての普及・啓発活動や早期診断方法の研究開発支援といった取り組みを紹介。認知症を発症した場合の備えである保険商品に加えて、早期発見・早期予防につながるサービスを一体的に提供することが、認知症対策として大きな効果があるとの考えで一致した。

 分科会には、同社取締役常務執行役員、田村泰朗氏とプロジェクト会議ヘルスケア委員会委員で東京医科歯科大学特任教授の朝田隆氏、国立長寿医療研究センター予防老年学研究部長、島田裕之氏が参加した。

 田村氏は「人の生涯に関わる保険会社にとって、保険金や給付金を支払うだけでなく、認知症についての普及・啓発活動に加え、早期発見や予防につながるような取り組みも大事な役割だ」と強調。朝田氏は「経済的な負担も含め認知症に備えることを社会常識化していくことが大切だ」と指摘。島田氏は「無関心層に正しい知識を持ってもらうことが必要で、そのための企業の取り組みは非常にありがたい」と語った。

知識普及へセミナー開催

 --待ったなしの認知症対策には、正しい知識の普及・啓発が重要だ

 朝田氏 誰もが加齢とともに認知機能が低下していき、60歳以降、5歳年齢が上がるごとに認知症を発症する確率は倍々で高まっていきます。長生きする限りは不可避で、完璧に治したり、防いだりするのは難しい。そうした現実の中で、人生の後半を健やかに生きるため、ある程度の年齢になれば、予防に効果のある運動や認知トレーニングをするよう心得てもらうことが大切になります。

 島田氏 認知症の予防薬や根本治療薬がない現状では、年齢なりの認知機能を保持し、できるだけ発症年齢を遅らせていくことが現実的な目標となります。そのためには、非薬物療法である運動の習慣化など健康的なライフスタイルを早くから身につけることが重要であると知ってもらうことが、まずはスタートになると思います。

 田村氏 平成28年3月に「ひまわり認知症治療保険」を発売したのですが、認知症に関する情報が非常に少ないと感じました。そこで全国各地で「認知症セミナー」に協賛し、認知症に関する知識や予防に関する情報をお届けする取り組みを行っています。健康寿命の延伸という課題に応えるため、従業員、お客さま、社会の全てを元気にすることを目指してスタートした「太陽の元気プロジェクト」の一環です。こうした地道な情報提供も、人のライフサイクルの変化に関するお客さまのさまざまなニーズをビジネスとしている生命保険会社として大事な役割だと考えています。

パートナー企業分科会に臨む(左から)国立長寿医療研究センターの島田裕之予防老年医学部長、東京医科歯科大の朝田隆特任教授、太陽生命保険の田村泰朗常務執行役員=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影) パートナー企業分科会に臨む(左から)国立長寿医療研究センターの島田裕之予防老年医学部長、東京医科歯科大の朝田隆特任教授、太陽生命保険の田村泰朗常務執行役員=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影)

アプリで早期発見

 --認知症の予防には、発症前の軽度認知障害(MCI)の段階での早期診断が大切だといわれている

 朝田氏 日本には認知症の専門医が2千人ほどしかいないので、そもそも診断を受けられる人数が限られています。脳に蓄積された原因物質のアミロイドβを測定するPET検査(陽電子放射断層撮影)も非常に高価で普及は難しい。血液中のバイオマーカー(疾病の進行度を測る指標)を測定して診断する安価な検査の開発が非常に重要になってきます。

 島田氏 認知症は、すべての高齢者が潜在的に診断対象であるという母集団の大きさがネックとなります。すべての人が最初から詳細な検査を受けるのは費用的に困難です。第1次では簡単なチェックリスト、第2次で認知機能検査、第3次に病院で検査を受けるといった段階的に診断へとつなげる仕組みが必要です。

 田村氏 保険金や給付金をお支払いして終わりということではなく、一歩進めて早期発見、早期予防につなげていただく取り組みを行っています。一つはスマートフォン向けの「認知症予防アプリ」の提供です。歩行速度を継続的に測定し、急に速度が遅くなると、MCIの兆候としてお客さまご本人にお伝えします。さらに、登録していただいたご家族にも通知する「見守り機能」を備えています。

 もう一つが、血液中のバイオマーカーを用いたMCIの早期診断を行っている筑波大学発のベンチャー企業、MCBIへの出資です。今後、お客さまに利用いただけるようにしていきたいと考えています。保険商品に加えて、こうしたサービスを一体となって提供していくことで、お客さまのお役に立ちたいと思っています。

知見蓄え、予防に貢献

 --運動や認知トレーニングなどが認知症の予防に効果的だといわれている

 朝田氏 私のところ(メモリークリニックお茶の水、同取手)ではMCIの方々に対して認知症へと進ませないことを目標に、筋トレやデュアルタスクなどの運動のほか、認知トレーニング、音楽、美術といったプログラムを提供しています。大事なのは我流ではなく、正しい方法でやってもらうこと。そのためには、インストラクターが必要です。インストラクターを通じて正しい情報を伝えるイベントや交流の場を設けるなど工夫が大切です。

パートナー企業分科会で発言する太陽生命保険の田村泰朗常務執行役員=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影) パートナー企業分科会で発言する太陽生命保険の田村泰朗常務執行役員=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影)

 島田氏 現実的な予防法の中核となるのは「活動」だと考えています。体を動かす身体的活動、頭を働かせる認知的活動、人と交流する社会的活動。これらをバランス良く組み合わせてやることが望ましい。おすすめしたいのは、体と頭の活動を同時に行うことです。それも、あまりに簡単すぎると、体にも頭にも負荷がかからず効果が期待できません。体は心臓が少しドキドキするくらい、頭は時々間違えるくらいの負荷が目安になります。

 田村氏 予防に取り組んでいただくにはやはり工夫が必要だと感じています。例えば、予防アプリについても、結果を他の人や全国平均と競えたり、脳のトレーニングゲーム機能を加えたりして、楽しみながら長く継続して使用いただけるよう、進化させていきたいと考えています。認知症に関する正しい情報をお客さまに提供することが、当社が目指している商品とサービス一体の取り組みにつながっていくと考えています。そのために予防に関して知見を蓄え、民間企業としてできる限りのことをしたいと思っています。

経済的負担に備え、常識化

 --「ひまわり認知症治療保険」「認知症治療保険」の合計契約件数が30万件を超え好調だ

 田村氏 当社は一軒一軒ご家庭を訪問し、生命保険を販売させていただく営業スタイルをとっています。ご家庭に訪問していますと、企業の職場内で生命保険を販売するよりも、「超高齢化」という日本の社会の大きな変化を肌で感じます。顧客層の変化を痛感する中で、平成26年に、シニアのお客さまに最もやさしい生命保険会社になることを目指し、「ベストシニアサービス」という取り組みを始めました。その一環として、保険商品に加入いただける年齢の上限を75歳から85歳に引き上げたところ、多くのお客さまにご加入いただきました。さらに、70歳以上のお客さまを年1回訪問するサービスも始めました。

 このサービスを通じ、認知症に対して不安を感じていらっしゃる方が非常に多いということが、改めてよく分かってきました。そこで、認知症に対するお客さまの不安にお応えできる商品の開発に着手しました。平成28年3月の発売当初から大きな反響をいただき、29年12月末までに30万件以上のお客さまにご加入いただきました。このように大きなご支持をいただいているのは、単に商品を販売するだけではなく、商品とサービスを一体にしてご提供しているからだと考えています。例えば、認知症になると保険に加入していたことも十分に認知できなくなる可能性があります。そこでお客さまのご家族と連絡が取れるよう、ご契約時にご家族の連絡先を登録いただく「ご家族登録制度」を導入しています。さらに、ご請求手続きにあたり保険給付の専門知識を有する内務員が直接訪問して手続きをお手伝いする「かけつけ隊サービス」を開始し、お客さまに安心して確実に給付金などを受け取っていただけるような体制を整えています。このような取り組みこそが、これからますます大きな社会的な課題になる認知症に真摯(しんし)に向き合い、ご家庭のお役に立つ生命保険を販売する企業としての社会的使命と考えています。

パートナー企業分科会で発言する東京医科歯科大の朝田隆特任教授=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影) パートナー企業分科会で発言する東京医科歯科大の朝田隆特任教授=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影)

 朝田氏 年金といった社会保障制度の持続性が不安視されるなか、やはり自分で備える必要がある。女性の平均寿命が90歳になろうかというなかで、加入年齢を85歳に引き上げることはもっともなことだと思います。これからは自分の安心の糧として備えを持っておきたいと考える人が確実に増えていく。現代に生きる者として、亡くなったときの生命保険と同じように、認知症になった場合の経済的な負担に備えることを、ある意味、社会常識化していくことが非常に重要だと思います。

 島田氏 認知症の予防つまり備えということでは、人によって準備状態が異なります。まだまだ無関心な人、関心はあるけれど何もしていない人、少し始めた人、いろいろな段階があると思います。今やらなければならないことは、無関心層の人たちに広く正しい知識を持ってもらうことだと考えています。そのための情報提供はまだまだ不十分で、そういった面での企業の取り組みは非常にありがたいと思っています。

社会保障制度を補完

 --認知症対策では、国・自治体、医療・研究機関、民間企業による産学官の連携が重要になる

 田村氏 民間企業にできることには限りはありますが、「ひまわり認知症治療保険」「認知症治療保険」の合計契約件数が30万件を超えたということはそれだけ認知症への関心や不安が大きいということです。そうしたお声に耳をよく傾け、お客さまのご期待にお応えしていきたいと思っています。そして、認知症に関する専門知識や最新情報もしっかり学習し、商品やサービスの開発に生かしていきたいと考えています。また全国に150を超える営業拠点がありますので、そうした拠点を活用して、認知症に関する知識、予防に関する情報をお届けできるような地域のお客さまに密着した取り組みもしていきたいと思っています。

 朝田氏 何に困っているのかといった最新情報というのは、民間の方が知っているはずです。連携ということでは国から自治体、民間という上意下達ではなく、下から上への下意上達が重要になると思います。これから介護保険制度も持続性が危うくなり、縮小せざるを得ない。そうしたときに、民間の認知症治療保険との相互補完が必要になってくる。保険の内容も、ケアマネジャーやナースの訪問といった現物支給のサービスがあってもいいのではないでしょうか。

パートナー企業分科会で発言する国立長寿医療研究センターの島田裕之予防老年医学部長=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影) パートナー企業分科会で発言する国立長寿医療研究センターの島田裕之予防老年医学部長=18日、東京・大手町の産経新聞社(酒巻俊介撮影)

 島田氏 やはり現状のサービスの持続に不安を抱えている社会保障制度と、相互補完的に民間保険を組み合わせ、必要なサービスを保持していくことが大切だと思います。日本の認知症の研究開発費というのは米国とは比較にならないほど少ないのが現状です。そこを何とか知恵で切り抜けるためには、産学官協働でリソース(資源)を持ち寄り研究体制を構築しなければならないと思っています。連携が今後の非常に大きな課題であり、それがないと、真の科学的根拠を明らかにすることはできないと感じています。

【用語解説】ひまわり認知症治療保険 平成28年3月に太陽生命保険が発売した、簡単なチェックで加入できる選択緩和型で認知症を保障する生命保険業界では初となる商品。生まれて初めてアルツハイマー型など器質性認知症に該当し、かつ意識障害の状態において所定の見当識障害があると診断確定され、その状態が180日継続した場合、給付金が支払われる。その他に7大生活習慣病や白内障、骨折なども保障。

【プロフィル】田村康朗氏 たむら・やすろう 昭和62年、太陽生命保険入社。四日市支社長、総合リスク管理部長、企画部長などを経て、平成29年4月から取締役常務執行役員。

【プロフィル】朝田隆氏 あさだ・たかし 昭和57年、東京医科歯科大学医学部卒。国立精神・神経センター武蔵病院精神科医長などを経て平成13年に筑波大学臨床医学系精神医学教授。26年から東京医科歯科大学医学部特任教授、27年からメモリークリニックお茶の水院長

【プロフィル】島田裕之氏 しまだ・ひろゆき 理学療法士を経て、平成15年、北里大学医学部大学院修了。東京都老人総合研究所研究員などを経て、22年、国立長寿医療研究センター自立支援システム開発室室長、26年から同センター予防老年学研究部長

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