扇千景さん「新たな挑戦が生きる糧に」

福田赳夫元首相から贈られた帯を締め、「何人分も挑戦させていただいた人生」と笑顔で語る扇千景さん(松本健吾撮影) 福田赳夫元首相から贈られた帯を締め、「何人分も挑戦させていただいた人生」と笑顔で語る扇千景さん(松本健吾撮影)

 昭和8(1933)年に創刊し今年、85周年を迎えた産経新聞は、誰もが100歳まで生きることが当たり前となる時代に備え、「100歳時代プロジェクト」をスタートさせた。産経新聞と同い年の元参院議長、扇千景さんは女優から政治家に転身し、妻として歌舞伎俳優、坂田藤十郎さん(86)を支え、母として2人の子供を育て、いくつもの人生のステージに立ってきた。「新しいことへの挑戦が生きる糧」。そう語る扇さんの歩みには、「100歳時代」を健康に楽しく生きるヒントが詰まっている。

 夫婦円満の秘訣は

 人それぞれの生き方がありますが、私の場合はとにかく前向きです。政界引退後は主に舞台に立つ主人をサポートしています。

 結婚生活も60年。歌舞伎一筋の主人は家では、ガスも消せない、靴下がどこにあるかも分からない人です。国会議員のときでも、夫の地方公演では宿泊先のホテルに行き、着る順番に肌着を並べるなど支度を調えてきました。国会があろうがなかろうが主人が翌日着る和服の準備を夜遅くまでしていたものです。

 周囲からよく「歌舞伎役者の奥さんで大変でしょう」って言われました。大変は大変ですが、どの社会も同じだと思います。サラリーマンだって上役の人に気を使ったり、いろいろあったりするでしょう?

 旦那さんがリタイアして家にいるようになると、嫌がる奥さんが多いですが、夫婦はお互いを理解し合って、思いやることが大事ですよ。尽くすことが夫婦円満の秘訣(ひけつ)です。

 もう一度結婚しても

 一昨年11月、がんの部分切除手術を受けました。知人からボディークリームをいただいて、うれしくて入念に塗っていたらわきの下に何かある。検査で乳腺にできる初期の乳管がんと診断されたんです。

 東京・歌舞伎座で公演中だった主人は私が入院していた1週間、毎日、病院に泊まり、病室から歌舞伎座に通いました。年明けにも大阪松竹座で公演があり、大阪の病院で術後の放射線治療を19回受けることになりました。このときも、地下鉄に乗って通ってくれました。

 以前に「徹子の部屋」(テレビ朝日系トーク番組)で、もう一度結婚するなら、主人を選ぶかどうかを聞かれたんです。主人は女性との噂も多かったですし、そのときは「嫌です」って答えました。でも、病気のときにとても親切にしてくれたので、昨年3月、夫婦で出演したときには黒柳徹子さんに「宗旨変えしました」って言いましたよ。

 習慣で健康維持

 健康維持のために習慣にしていることがあります。1日1万歩のウオーキングです。

 国会議員をしていたときに、医師の勧めで万歩計を付けてみたら、1日2千歩しか歩いていなかったんです。それで帰宅後の夜、歩くことにしました。

 昼間に2千歩を歩いているとして残り8千歩。時間にして1時間20分を毎日です。建設相や国土交通相のときは、国会審議などに関して各部局の担当者から受けた説明内容を録音しておいたのを、聞きながら歩きました。しっかりと頭の中に入るんですよ。それで、家の中に入ったら家族とは政治の話はしない。人生、大事なのは「切り替え」と「割り切り」です。嫌なことがあっても翌日には忘れちゃうんですよ。

 政界引退後は主人も一緒に歩くようになりました。公演で地方に行くときも、旅行のときも必ず2人で一緒に歩いています。おかげさまで、2人とも足腰に痛いところはありません。だから主人も元気に舞台に立ち、口上ができるんだと思います。

 趣味見つけ楽しむ

 老後の人生を元気に、豊かに過ごす上で大事なことは、体を動かすことと、外に出かけていくことだと思います。

 友人が70代でご主人を亡くし、2年ほど自宅にこもってしまったことがありました。芝居や食事に誘って、とにかく外に連れ出しましたが、マージャン教室をきっかけに元気になったんです。「あなた、マージャンできます?」って自分から誘うようになり、お友達もたくさんできたそうです。「頭も手も使うし、何よりの生きがいよ」って喜んでますよ。

 趣味は持った方がいいですね。私は引退後、パソコンを買って楽しもうと思っていたらのめり込みすぎて、主人に取り上げられてしまいましたけれど。何でもやり出したら止まらないんです。

 宝●(=塚のノ二本に「、」を重ねる)歌劇団から女優、ワイドショーの司会者、そして、国会議員とさまざまなことに挑戦してきました。当時の福田赳夫首相に参院選出馬を要請され、政界入りしましたが、人から勧められて挑戦するチャンスにめぐり会うことも多かったです。何人分も挑戦させていただいて、それが私の生きる糧にもなってきた。何でも楽しんじゃうんですよ。

 今は2人の息子夫婦と計9人で、三世帯住宅で暮らしています。それぞれの世帯の色を作っていってくれたらうれしいし、それが楽しみ。今、一番、気になっているのは27歳になる孫の中村壱太郎(歌舞伎役者)のこと。早く結婚してほしいですね。(長嶋雅子)

 おおぎ・ちかげ 昭和8年5月10日、神戸市生まれ。29年、宝塚歌劇団で女優デビュー。33年に歌舞伎俳優、二代目中村扇雀(現・四代目坂田藤十郎、人間国宝)と結婚。フジテレビのワイドショー「3時のあなた」の司会で人気を集め、52年に参院初当選を果たした。建設相、国土交通相などを経て、平成16年に女性初の参院議長に就任。19年7月、5期務めた参院議員を引退した。22年に桐花大綬章。現在、靖国神社崇敬奉賛会会長。四代目中村鴈治郎は長男、三代目中村扇雀は次男

 100歳時代プロジェクト 100歳まで生きることが当たり前となる時代に備え、個人の意識や行動、社会構造の変革を促すことを目的に発足した。100歳時代を生き抜く知恵や備え、社会課題の解決策などについて議論し提言や指針として発信する「100歳時代プロジェクト会議」を設置。会議は、(1)健康長寿社会実現を目指すヘルスケア委員会(2)人生100年を生き抜くお金、仕事、生きがいなどを示すライフプラン委員会(3)超高齢社会を支えるイノベーションや社会インフラなどを議論する安心・安全社会委員会-の3つで構成する。

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