コロナ後見据え地域創生 本社と栃木・鹿沼市で「移住ツアー」開催

 誰もが100歳まで生きることが当たり前となる時代に備え、産経新聞社が取り組んでいる「100歳時代プロジェクト」では、新型コロナウイルスの流行で「働き方」が大きく変貌するなか、新たに「テレワーク移住プロジェクト」を立ち上げた。現在の仕事は変えずに地方に住居を移して在宅勤務するという新しい働き方だ。100歳時代プロジェクトでは、健康寿命の延伸のほか、働き方や資産運用などのライフプランについて提言してきたが、コロナ収束後の“ポスト・コロナ時代”も見据え、働き方の選択肢を広げていく考えだ。

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 テレワーク移住は新たな働き方の選択肢となるだけでなく、都市部以外の地域に新たな人材を定着させる機会ともなることから地方活性化の後押しにもなると期待されている。産経新聞社はテレワーク移住を推進する立場から、11月23日、プロジェクトの第1弾として、栃木県鹿沼市と共催で「栃木県鹿沼市オンライン移住ツアー」を開催した。

破格の家賃

 ツアーには約30人が参加。ユネスコの無形文化遺産にも指定されている鹿沼秋まつりの彫刻屋台の展示施設からリモートであいさつした佐藤信市長は、同市が東京から100キロ圏内にあるとしたうえで、「自然が豊かで交通の便もよく住みやすい」とアピールした。

彫刻屋台をバックに鹿沼市をPRする佐藤信市長 =栃木県鹿沼市、彫刻屋台展示館 彫刻屋台をバックに鹿沼市をPRする佐藤信市長 =栃木県鹿沼市、彫刻屋台展示館

 続いて、移住を担当する同市鹿沼営業戦略課の佐藤正樹さんが市の地勢や住環境について解説。東京から鹿沼までは電車(JRや東武鉄道)でも、自動車(東北自動車道経由)でも、いずれも約1時間半でアクセスが可能だと紹介。さらに市の東側は平地で住宅が多く、西側が清流や渓谷など自然が豊かな地域で、「車で約30分で行き来できる」などと説明した。

 住居については、駅から徒歩10分で2台の駐車スペースがある2階建ての一軒家が月8万円弱で借りられるとの事例を紹介するとともに、空き家バンクも整備しているとした。

 現地のコミュニティーについて語ったのは、里山に囲まれた南摩地区で農業の傍らパン店、カフェ、おでん居酒屋を経営する「一本杉農園」の福田大樹代表。福田さんは農薬や化学肥料を使わない農業に取り組み、収穫した野菜をカフェで出すプレートの食材にしている。

経営するカフェで地元のコミュニティーについて語る福田大樹代表 経営するカフェで地元のコミュニティーについて語る福田大樹代表

 また、ダイコンはそのまま市場に出すだけでなく、「おでんにすることで付加価値のある商品にすることができる」と複数の事業を行う意義を述べた。

 おでん居酒屋には地元の客が多く訪れるといい、福田さんは「もし移住を希望する人がいれば、ふらっとお店に来てもらえれば、そこにいる地元のお客さんを紹介できる」と地域に溶け込めるよう“仲介”することも約束した。

 この地域の良さとして、都会とは違って広々としていることから、ゆったりと子育てができること、ストレスなく過ごせることなどを挙げた。

上杉龍矢さん 上杉龍矢さん

 長野県からUターンしてカレー店を営む上杉龍矢さんは関東一の清流といわれる大芦川の美しさをたたえ、「街もコンパクトで、顔の見えるつながりが持てるのがいい」と語った。

お試し施設用意

 同市への移住を考えている人への支援制度については、同市鹿沼営業戦略課の永井良さんが説明。既存の移住者への支援金制度が来年度からはテレワーク移住者にも拡充される可能性があることや、1カ月間、格安で“お試し移住”ができる施設「いちごいち家(え)」を用意していることを紹介した。

 このほか、とちぎテレビのスタジオともつなぎ、同市出身の若林芽育(めぐみ)アナウンサーによる地元のニュース5本も放映された。

 自宅などからのリモートでの参加者からは「現在、都会に住み、車を持っていないが、それでも大丈夫か」との質問があり、循環バスがあるが、車があればさらに便利であること、「テレワーク以外でアルバイトをしたい」との問いには、市内に工業団地があり、そこでのアルバイトなどについて市が情報提供する-といったやりとりがあった。

 参加者には、市内にある手づくりショコラ工房アカリチョコレート(上原晋オーナーショコラティエ)から「とちおとめトリュフショコラ」と、一本杉農園から「レーズンとクルミのラスク」が贈られた。

 同プロジェクトでは今後、他の自治体ともイベントを行う予定だ。

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パソナグループ 「ハイブリッドワークライフ協会」設立

地域、業種越えた人材流動化へ

 新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが広まり、地域や会社、職種をまたぐ働き方が現実になりつつある中、人材サービス大手のパソナグループが10月、「ハイブリッドワークライフ協会」(理事長・山田啓二前京都府知事)を設立した。産経新聞社も参画し、今後、地方活性化の後押しになる取り組みを行っていく。

 協会には、新潟県や鳥取県、神戸市、北九州市などの自治体、産経新聞社やANAホールディングス、コクヨ、JTBなどの企業、一般社団法人「長野県観光機構」など計42団体が参画した。

 ハイブリッドワークとは従来の働き方にとらわれず、都市と地方とをまたいだり、現在の仕事と農業とを両立する-といったもので、都市部での現在の仕事のまま地方に移住し、そこで在宅勤務するテレワーク移住なども該当する。

伊藤真人常務理事 伊藤真人常務理事

 協会の伊藤真人常務理事によると、コロナ禍で働き方に急速な変化が生じているものの「会社の制度や自治体の対応がそれに追いついていないため、官民共同で新たな制度の提案や構築を模索したい」と話す。一例として、週の半分を東京、残りを地方で勤務するようなハイブリッドワークの形態が今後、増えるような場合には、会社の人事制度の変更だけでなく、複数の住民票を持てる制度の検討など、生活の根幹にかかわるような制度変更も含まれる。

 協会では、新たな働き方・暮らし方の啓発・普及のほか、全国の遊休施設を活用したテレワーク拠点の整備などを行い、都市と地方との人材の流動化を加速させることで、双方の企業間での協業が生まれる機会にもしたい考えだ。

中村稔事務局長 中村稔事務局長

 かつて経済産業省に勤め、兵庫県産業労働部長として地方に出向した経験を持つ中村稔事務局長は「地方では、公務員をしながら実家の田んぼで稲作も行うなど、既にハイブリッド的な暮らしをしている人が多くいる」と指摘。そのうえで「東京だけで勤務していると分からないかもしれないが、地方に住み、そういった人たちと交流することで、東京にはないさまざまな可能性を見いだすことができる」と語る。

 多くの自治体はこれまで、企業誘致によって人を呼び込もうとしたものの、なかなか成果を挙げられなかった。パソナグループの調査ではハイブリッド型の就労希望者は多くいることから、協会の今後の取り組みの進展で、新たな形の人の誘致が主流になる可能性がある。

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新潟県 協会に職員1人派遣

 新潟県は新たな形での人の誘致を推進するため、ハイブリッドワークライフ協会に職員1人を派遣した。

 派遣されたのは、同県東京事務所所長代理の佐藤圭祐さん。週2日、東京・丸の内のパソナグループのオフィス内にある協会事務局に勤務し、協会に参画する団体や企業の訪問などを行う。

ハイブリッドワークライフ協会でミーティングを行う新潟県職員の佐藤圭祐さん(中央)=東京・丸の内のパソナグループ新丸の内ビルオフィス ハイブリッドワークライフ協会でミーティングを行う新潟県職員の佐藤圭祐さん(中央)=東京・丸の内のパソナグループ新丸の内ビルオフィス

 佐藤さんによると、人口220万人の新潟県は毎年、約1%ずつ人口が減少しており、対策は「県にとって一丁目一番地の課題」だという。

 県では人を呼び込むため、これまで、いわゆるU・I・Jターンによる県への移住促進と企業誘致を両輪に据え、それと並行して県内の産業振興を行う形を取ってきた。だが「東京の一極集中の現状は変わっておらず、新しいアプローチも必要なのではないかと考えるようになった」と話す。

 特に深刻なのが若者の県外流出だ。死亡などによる自然減を除いた毎年約6千人の流出のうち、15~24歳が8割を占めている。将来、コミュニティーが維持できなくなる懸念があるという。

 佐藤さんは「ハイブリッドワークなどを普及させることは新潟県のみならず、他県のためにもなる」と意義を語る。また、佐藤さんは東京事務所で企業誘致を担当していることから、協会での企業回りを通じ“本業”の企業誘致の面でもPRの機会にしたい考えだ。

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協会発足記念し18日にオンラインシンポ

 ハイブリッドワークライフ協会では、発足を記念して、新たな働き方・生き方について探るシンポジウム「働き方が変わる、日本が変わる~ハイブリッドな働き方・企業のあり方から生まれるイノベーション~」を12月18日午後2時半からオンラインで開催する。

 協会理事長の山田啓二・前京都府知事と日本総研の藻谷浩介主席研究員による基調講演の後、協会専務理事の南部靖之氏(パソナグループ代表)が加わりパネルディスカッションを行う。モデレーターは協会事務局長の中村稔・元兵庫県産業労働部長が務める。

 参加費は無料、シンポの詳細と申し込みは

https://www.pasonagroup.co.jp/awaji_expo/awaji01.htmlこちらへ。

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