老後の備え、待ったなし 年金4100万円足りない

 ◆定年延長へ動く企業

明治安田生命保険でも定年延長が導入される。若手社員を指導する山田一郎さんも対象者の一人 =東京都千代田区 明治安田生命保険でも定年延長が導入される。若手社員を指導する山田一郎さんも対象者の一人 =東京都千代田区

 それぞれが体調に合ったペースで生涯現役で働けば、人口減少による労働力不足問題に対する方策にもなる。企業は「定年延長」へと動き出している。

 今年7月、東京都江東区の明治安田生命保険の研修所。2019年に60歳を迎える社員114人が数回に分かれて集まった。同年4月に導入される60歳から65歳への定年延長について説明を聞くためだ。

 「60歳を超えてからも、経営管理職や営業所長への登用が可能」「給与面の処遇は、従来の60歳超の嘱託雇用のおおむね2倍程度」。人事担当者の話に、出席者は真剣な表情でペンを走らせる。

 資産運用部門勤務の山田一郎さん(58)は「住宅ローンの返済があるし、厚生年金の報酬比例部分が受け取れるのは64歳から。定年延長制度は処遇が良く、経済的に助かる」と歓迎する。

 既に定年を65歳としている大和ハウス工業は2015(平成27)年度から、65歳を超えた人を嘱託で再雇用する「アクティブ・エイジング制度」を導入した。契約更新は1年ごとだが、無制限の雇用延長が可能でまさに「生涯現役」で働ける。給与は月20万円。企業年金を合わせれば65歳直前とほぼ同水準の収入が得られる。

 65歳を超えた対象者のうち再雇用を選択する人は年々増え、今年は66人中48人と73%に達した。東京本社人事部の菊岡大輔次長は「思った以上の多さ。当初は50%ぐらいかと考えていた」と驚きを隠さない。

 再雇用者の多くは品質管理など“後方支援”部門に配属され、その分、若手を人手不足が深刻な現場に割けるようになった。

 同様の動きはイオン、サントリーホールディングス、ホンダなどにも広がる。厚生労働省の2016(平成28)年の調べによると、定年を65歳以上としている企業は2万4477社で全体の16・0%。定年制を廃止した企業は4064社で全体の2・7%と、いずれも増加傾向にある。

 政府も企業の定年延長に呼応し、年金の繰り下げ受給の拡大に取り組んでいる。年金の受給開始を65歳から繰り下げると、その分毎月の受給額が増える仕組みで、68歳まで遅らせると25%、70歳では42%増える。

 内閣府の有識者会議は10月2日に取りまとめた高齢化対策の報告書の中で、繰り下げ受給時期を70歳からさらに延ばすことを検討すべきだとした。

 ただ、繰り下げ受給を選択する人は多くない。2014(平成26)年度に年金を受け取り始めた人のうち繰り下げ受給者は1・5%にとどまる。制度を知らない人が多いとみられ、政府は繰り下げ受給のメリットを積極的にアピールしたい考えだ。

 ◆ポジティブに捉えて

 「日本は世界一の長寿国であり、健康に生きることができる。より長い年月を、健康に生きられることは、素晴らしい“贈り物”だ」

 政府の「人生100年時代構想会議」の有識者議員に招聘(しょうへい)された英ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンさんは、長く生きることを不安に思うのではなくポジティブに捉えるべきだと説く。

 長寿社会の生き方を示した著書『ライフ・シフト-100年時代の人生戦略』で知られるグラットンさんは、「『年齢』の持つ意味を考え直し、60歳を超えても多くの人々が働くようにすることが重要だ」と語り、長く働くことが超長寿社会の課題解決につながると考えている。

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