糖尿病、高血圧… オンライン診療で重症化予防

スマートフォンを使い、画面に映った患者に対しオンラインでの診療を行う医師(MRT提供) スマートフォンを使い、画面に映った患者に対しオンラインでの診療を行う医師(MRT提供)

 ■情報端末の“入門”にも

 健康寿命を全うするためには、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の治療を継続し、脳卒中や心疾患など合併症の予防に努める必要がある。だが通院が面倒で自覚症状もないため、中断してしまう人も多い。こうした中、スマートフォンなどを使い、自宅にいながらビデオ通話で診療ができるオンライン診療が注目されている。高齢者が情報端末に親しむ契機にもなるという。(山本雅人)

 ◆幅広い恩恵

 かつて、オンライン診療といえば、医師のいない島嶼(とうしょ)部や僻地(へきち)と都市部との医療格差を埋める手段といった考え方が主流だった。しかし近年、スマホやタブレットなどの高性能な情報端末が一般に普及し、より幅広い恩恵をもたらす可能性が出てきている。

 医師の求人サイトなどを運営するMRT(東京都渋谷区)は平成28年からオンライン診療「ポケットドクター」を始めた。全国の約500の医療機関と組み、患者は専用アプリをスマホやタブレットに入れ、インターネット回線に接続する。すると、診療時間の予約▽高画質のビデオ通話による診療▽クレジットカードでの決済▽処方箋や薬の配送のサポート-が行える。患部がどこかといったことを正確に伝えられるよう、画面上に赤ペンで書き込める機能も付く。 ポケットドクターは次世代のヘルスケア産業を担うものとして、経済産業省のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016のグランプリを受賞した。

 ◆「対面」の補完

 ただ、現時点では保険適用となる診療に条件がある。初診は対面で行い、それ以降も3カ月に1度は対面診療を行う▽対象となる病気は高血圧や糖尿病、ぜんそくといった慢性疾患が中心▽症状が安定し治療を継続していること▽緊急時に対面診療がすぐできるよう、遠隔地でなく地域の医療機関が行う-などだ。

 MRTの馬場稔正社長は「通院や長い待ち時間の負担がないので、対面診療の補完として有用」としたうえで、症状がないと病院に行かない人も多い中、「オンライン診療も使って気軽に定期受診することで、重症化の予防に寄与できるのではないか」と語る。

 通常の対面診療に併せ、独自にオンライン診療を行っているところもある。平成13年の開設からインターネット医療の普及を理念に掲げる両国東口クリニック(東京都墨田区)。

 開設当初から電子私書箱を利用したメールによる検査結果の通知などを行い、昨年7月からはスマホなどを使ったオンライン診療を始めた。対象は、痛風や高尿酸血症で通院中で、状態が安定している患者だ。

 ◆定年延長後押し

 同クリニックの大山博司理事長・インターネット医療部長は、意外な使われ方として、「勤労者が夜間や土日に来診しようとしたものの、予約が埋まってしまっていたため、平日に職場などでの受診を希望する人が結構いる」と話す。100年の生涯が当たり前になり、定年延長が議論される中、高齢者労働の後押しになる可能性もある。

 また、高齢患者で、オンライン受診のためにスマホを購入した人もおり、「高齢者が情報端末に触れる一つの機会となるかもしれない」という。医療費については「回線使用料なども徴収するため対面より若干高くなるが、利便性との間で患者さんの判断になる」。

 日本インターネット医療協議会理事で平成横浜病院総合健診センター長の東丸(とまる)貴信医師は、診療の頻度を容易に増やせるのはメリットとしたうえで、「直接対面と画面を通じた対面は微妙に違うので、医師のコミュニケーション能力がこれまで以上に問われることになる」と話す。さらに「診療で重要なのは患者と医師との信頼関係。運営主体となる組織が間に入る場合は、医師との関係を明示することが安全と質の確保につながる」と指摘している。

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