牛乳 筋肉組織の強化からも有用性

 ■認知症発症と筋力に関連

 牛乳に認知症抑制や筋力アップを後押しする効果が期待できることはこれまでさまざまな研究から明らかになっていたが、最近、認知症発症と筋力との間にも大きな関係がありそうだとの研究結果が発表された。これらの結果から、歯の悪い高齢者でもタンパク質の摂取がしやすい牛乳の有用性が「筋肉組織の強化」という面から、改めてクローズアップされることとなった。(山本雅人)

牛乳と認知症・筋力との関係 牛乳と認知症・筋力との関係

 ◆発症リスク3割減

 認知症発症と筋力との関係が明らかになったのは、医学界では国際的に有名な九州大の「久山(ひさやま)町研究」のデータ。昭和63(1988)年に福岡県の同町の住民健診を受けた60歳以上の1192人を24年間追跡したところ、全身の筋力の指標となる握力の数値が低かった人が、アルツハイマー型の認知症になりやすい傾向があることが分かった。

 研究を統括する二宮利治・九州大大学院医学研究院教授は「高齢者にとって筋力を保つことの大切さを痛感した」と語る。この研究は昨秋の日本認知症学会学術集会で発表され反響を呼び、現在、データを詳細に解析し、論文化の作業が進められている。

 牛乳と認知症抑制との関係については、平成17年に久山町研究によって報告されている。1日当たりコップ1杯程度の牛乳(97~197グラム)を飲む人は、あまり飲まない人に比べ、アルツハイマー型と血管性を合わせた認知症の発症リスクが3割程度低くなるという。今回の研究とほぼ同じ対象者を17年間追跡し、栄養摂取に関するアンケートと突き合わせて判明したものだ。「牛乳に認知症の予防効果があるとまでいっていいかどうかは分からないが、興味深い数字だと思う」(二宮氏)

 ◆独自の速歩と併せ

二宮利治教授 二宮利治教授

 筋力アップに牛乳が後押しとなる、とのデータを明らかにしたのは、「インターバル速歩」を提唱する信州大大学院総合医理工学研究科の能勢博特任教授。人間は30代以降、10歳ごとに筋力が5~10%低下するといわれるが、その対策のため高齢者でも取り組みやすい運動方法として能勢氏が考案したのがインターバル速歩だ。ややきつく感じるペースの歩行と、ゆっくりしたペースの歩行を3分間ずつ交互に繰り返すもの。1日15分で週4日以上(まとめてやる場合は1週間で計60分)行う。「5~6カ月の継続で筋力が1割近くアップする」という。

 能勢氏らのグループは、より効果的に筋力アップできる方法を探るため、インターバル速歩の直後に乳製品を摂取してもらう研究を平成25年に行った。対象はインターバル速歩を5カ月間続け、一定の筋力に達した状態で安定した中高年の女性計60人。30人ずつ2群に分け、そこからさらに5カ月間、片方の群はインターバル速歩後30分以内にコップ1~2杯の牛乳に相当する乳製品を摂取、もう片方はインターバル速歩だけを行ってもらった。その結果、乳製品摂取の群は大腿筋の筋力が16%アップしたのに対し、摂取しない群は7%と大きな差が出た。

 能勢氏は今回の久山町研究について「筋肉細胞が強化され、細胞内のエネルギー工場、ミトコンドリアの機能がアップし、体内での細胞の損傷が抑制される」と説明。その上で、「脳で細胞の損傷が抑制されれば、認知症の抑制につながるのではないか」とメカニズムを解説する。また、二宮教授は「牛乳の成分が脳の血管などによい作用をしているだけでなく、筋肉の維持に必要なタンパク源になっているのかもしれない」と話している。

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