認知症予防は早期の診断と対処がカギ 健診で「気づき」 仲間と運動で「改善」

 豊かな100歳時代の実現は、元気に生活できる「健康寿命」をいかに延ばせるかにかかっている。その大きな阻害要因が認知症だ。認知症の患者数は2025年に700万人を突破し、65歳以上の5人に1人まで増えると推計されており、対策は急務だ。発症前の軽度認知障害(MCI)の段階で生活習慣の改善や運動の習慣化に取り組めば、発症を遅らせる予防や状態の改善が可能であることが分かってきた。「早期診断・早期対処」が予防のカギを握っている。

 昨年11月下旬、愛知県豊明市役所に隣接するホールに、約120人の高齢者が三々五々に集まった。国立長寿医療研究センター(同県大府市、鳥羽研二理事長)が同市のほか、東海市とも協力して始めた認知症や要介護の予防を目的とする健康診断「脳とからだの健康チェック」を受けるためだ。すでに大府市などでも同様の健診を行っており、最終的に計5自治体などで約2万7千人に実施し有効性を検証する。

 健診ではMCIの程度や要介護の要因となる身体の虚弱(フレイル)の状態などを測定。ハイリスクと診断された人には、運動教室への参加を促したり、自治体が保健師を派遣したりして予防につなげる。

 「予防に取り組む“気づき”の場にしたい。体を動かすことが良いと分かっていても、人はなかなか始められない。自分の状態を客観的に知れば、運動を始める動機付けになる」

「メモリークリニック取手」でトレーナーの藪下典子さん(左)の指導に従いトレーニングに取り組む高齢者=茨城県取手市(春名中撮影) 「メモリークリニック取手」でトレーナーの藪下典子さん(左)の指導に従いトレーニングに取り組む高齢者=茨城県取手市(春名中撮影)

 センター・予防老年学研究部の島田裕之部長は健診の狙いをこう説明する。

 朝一番で参加した農業に携わる女性(73)は、「自分では認知症ではないつもりだが、本当はどうなのか知りたくて参加した」という。認知症の義母を7年間介護した経験があり、「母は人と交流するのが好きでなかった。認知症予防には外に出て、人と話すことも大事だと思うので、小学生の見守りボランティアなどに参加している」と、予防への意識は高い。

 健診の最大の特徴は、タブレット端末を使った認知機能検査だ。同センターが開発したもので、物語の内容を記憶したり、情報処理のスピードを測ったりして、認知機能の状態を5段階で示す。

 島田氏は「MCIの場合、元に戻る人が一定の割合でいる。高齢になってからでも脳の萎縮の抑制や改善が可能と分かってきた。発症を待つのではなく、健診などでリスクを把握し早期に対応することが望ましい」と、早期診断・早期対処の重要性を指摘した。

 運動によるMCIの改善に取り組む医療機関もある。茨城県取手市の「メモリークリニック取手」(朝田隆理事長)では週5日、運動を中心としたトレーニングを実施している。

 「右手でグー、パー。左手はグー、チョキ、パー。同時にやってみましょう」

 アップテン代表で健康運動指導士、藪下典子さんの指導で、60~80代の参加者13人が一生懸命に両手を動かしている。藪下さんは「できなくても、つられないように考えながら指を動かすことで脳が刺激を受ける。集中力や注意力を高めることが大切」とアドバイスする。

 トレーニングは準備運動からリズム運動、筋力運動、ストレッチまで約90分のかなりハードな内容だ。朝田氏は「あらゆる病気の予防に運動が有効なのは分かっている。認知症予防の効果を厳密に測るのは難しいが、参加者はおおむね、状態が維持か改善されている」と指摘する。

 5年前からトレーニングに参加している佐々木慶太郎さん(75)は「始めたころは話したくても言葉が出ない状態だった。ここまで続けられたのは支えてくれたスタッフや一緒にやってきた仲間のおかげ。頑張れば症状が改善することを伝えたい」と話す。最近は認知症予防についての講演活動も行っている。

 朝田氏は「他の病気とは異なり認知症の予防には知的刺激と社会交流が有効。同じ思いを持った仲間がいることで心や気持ちが前向きになれる。そうした効果も大きい」と話している。

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