超高齢化に成長の種 移動手段・介護現場に技術革新

 黄金色の稲穂が風にそよぐ田園地帯に延びる市道を5人の乗客を乗せた小型バスが時速10キロほどでゆっくり進む。そのバスにはドライバーの姿はなく、運転席やハンドルさえない-。

道の駅にしかたで行われた自動運転実証実験=栃木県栃木市(水野拓昌撮影) 道の駅にしかたで行われた自動運転実証実験=栃木県栃木市(水野拓昌撮影)

 栃木県栃木市の道の駅「にしかた」を拠点に国土交通省が9月7日に行った自動運転の実証実験だ。

 使われた車両は6席の電気自動車。リチウムイオン電池を動力とし、最大速度は時速40キロ。GPS(衛星利用測位システム)などで位置を特定して、カメラとレーダーで障害物を検知する。一度通った道は記憶できる。

 人口減少で過疎化が加速する地方において、自動車の運転ができなくなった高齢者らの移動手段をどう確保するのか。「100歳時代」の課題解決策として大きな期待を集めているのが、国内外の自動車メーカーやIT企業が開発にしのぎを削る自動運転技術だ。

 新しい交通システムを研究する東大大学院新領域創成科学研究科の稗方(ひえかた)和夫准教授(工学)は、車の未来をこう予測する。

 「車を呼ぶと、無人運転の車がやってきて、指定の場所まで運んでくれ、降りると自動制御で帰っていく。運転席はなくなる」

 政府のIT総合戦略本部は完全自動運転の実現時期を「2025年」と見込む。稗方氏は「高速道路を自動走行車だけが走るならそれほど難しくないが、急な車線変更や割り込みへの対応や歩行者との共存は容易でないだろう」と指摘する。高いハードルを乗り越える技術革新がカギを握る。

ドローンで配達

 瀬戸内海に浮かぶ愛媛県今治市の大三島。ブーンという音とともに小型無人機の「ドローン」が現れた。

 地面に敷かれた赤いシートの上に着陸し、利用者がスマートフォンで注文した生鮮野菜が入った重さ1キロほどの箱を降ろし、再び飛び立った。昨年10月、インターネットサービス大手、楽天が中心となって実施した配送実験だ。

 ドローンはGPSを利用して自動で飛行し、コントローラーで人が操作する必要はない。目的地に近づくとカメラで着陸地点を捕捉し、3メートル四方の範囲に着陸し、荷物を届ける。

 過疎地で自前の移動手段を持たない高齢者は、“買い物弱者”でもある。楽天ドローン事業部の向井秀明ジェネラルマネージャー(37)は「人手が足りない地方の商店が、配送や出前に使えるようにしたい」と意気込む。

転倒事故を回避

 神奈川県葉山町の介護付き有料老人ホーム「SOMPOケア ラヴィーレ葉山」。生活相談員を務める安田俊昭さん(29)は「どうすれば入居者の転倒を回避できるのか。職員の努力だけでは対処しきれないのが実情だった」と打ち明けた。

 元気だった入居者が転倒による骨折で歩行困難になり、急速に身体機能が低下してしまう-。転倒は高齢者にとって“致命的”なけがにつながりかねない。しかも、転倒事故は施設職員の見守りが手薄になる夜間に起きるケースが多い。

 最先端の通信技術を活用することで、高齢者の“転倒リスク”や、見守る職員の負担を低減する取り組みも行われている。

 同県とNTTドコモなどは今年1月から同ホームでセンサー機器を使った実証実験を始めた。入居者に歩数や消費カロリーなどを記録するウエアラブル端末「スマートウオッチ」を装着してもらうと同時に、ベッドに睡眠センサーを設置。血圧や体温、居室内の温度や湿度などさまざまなデータを収集するシステムを構築し、職員がリアルタイムで入居者の活動や睡眠状況を把握する。

 ある80代の女性入居者は「夜間、見回りに来てもらうたびに起きてしまうからもう来ないでほしい」と神経質になっていた。ところが、睡眠センサーなどのデータを分析すると、実際には職員が2時間ごとに見回りに来ても女性は目を覚ますことはほとんどなく、逆に頻繁に昼寝をしていたことが分かった。分析を元に昼間に体操や外出する時間を増やすように促してみると、女性は規則正しい睡眠を取れるようになり、落ち着きも取り戻したという。

 人手頼みで担い手の足りない介護の現場では、技術革新(イノベーション)を活用し、改善する余地は大きい。

 超高齢社会の課題解決策をビジネス化することを目的に同県が設置した「未病産業研究会」には現在、NTTドコモなど492社(9月1日現在)が参加。さまざまな成長産業の「シーズ(種)」が生み出されつつある。

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